コペル書評

読んだ本の感想をメモ。ときどき映画も。

自由をつくる自在に生きる 森博嗣

自由をつくる自在に生きる (集英社新書 520C)

 「スカイ・クロラ」などで知られる人気作家のエッセイ。

難しい言葉を使わず、素朴に考察を重ねていくスタイル。好感がもてます。

 

本書は、「人生の目的は自由」という命題からはじまって、いかに自由に生きられるかについて考えます。

 

全体的に「支配からの自由」という観点が重視されている。

他者からの支配、社会からの支配、自分による支配・・・

 

さまざまな支配にたいして、もっと自覚的になろう

これが本書の中核的なメッセージでしょう。

 

そして、どうすればレジスタンスできるかについて考えていきます。

 

これは個人的な印象なんだけど、日本人は支配に対して鈍感だと思います。長い封建社会がわりと幸せに機能してしまったからでしょうか。支配されていることに慣れているし、無自覚でいられる。

 

しかし、支配された人生には、息苦しさ、やるせなさ、不機嫌さが蓄積されていく。だから、細部にわたって「支配」を考えていく本書は、自由への登竜門といえるでしょう。

 

もちろん、それだけでなく、自由感を日常で持つのはどんなときか、という観点ももらさず書かれています。「できないことができるようになった」という小さな達成感を得たとき、たしかに自由を感じる。もっとこういった自由感を大切にしようということでしょう。

 

さて、本書の中で一番印象に残ったのは、自由な仕事について。

著者は大学で研究していたとき、いっさいの束縛のない自由な仕事環境だったそうです。研究テーマも、期間も、時間の使い方も、すべて自由。全部自分で決められる。

 

ここまで自由な仕事は、芸術家くらいではないかという環境。

人から見れば、理想郷に見えるかも知れない。しかし、実は、まったく逆なのだと。

 

人から与えられた仕事であれば、終わりがある。だから、一仕事終えたときの達成感がある。サラリーマンは会社に束縛されるけど、午後5時になれば、仕事が終わったという達成感がある。

 

しかし、完全に自由な職場というのは、何をやっても、どこまでやっても、キリがないという感覚。まったく達成感を得られず、「やらなければ」というプレッシャーが半端ないそうです。

 

ですから、大学の研究者には、20代や30代で病死したり自殺したりする人が少なくないという。

 

自由というのは、楽なことではないということです。

 

一方で、「自由の虜」という概念も出てくる。

まず、目指すものを自分で決める。これが自由の出発点。そして、人生でそこにたどり着けないとしても、一歩でも近づいているという感覚。これを知ったら、もはや自由の魅力から逃れられないという。

 

満足度:B

「支配からの自由」という論点が多すぎて、私が読みたかった「自己表現ができることによる自由」という観点がなかった。そこが残念。