コペル書評

読んだ本の感想をメモ。ときどき映画も。

世界システム論講義 | 歴史を動かすのは何か

世界システム論講義を読んだのでメモ。

歴史というと、政治家の名前ばかり覚えさせられるイメージがある。

そのため、あたかも政治家(権力者)が歴史を作っているかのような錯覚がある。

世界システム論は、そういった歴史観を根本的に覆す内容。

 

 

近代になってから、多くの地域は閉鎖的に存在できなくなった。それぞれの地域がお互いに影響し合って歴史を作る。

近代の世界史は、地球全体でひとつの有機体のように展開している。

そんな内容。

砂糖の世界史とも重なる

以前、この著者が書いた「砂糖の世界史」を読んだことがある。

 

砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書)

砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書)

 

 

世界商品となった「砂糖」を軸にすると、近代の世界史がスッキリ観えてくるという本。

ネットのブログで紹介されていて、試しに読んでみたら、あまりに面白くて驚いた。

植民地、奴隷貿易産業革命など、世界システム論とも一部重なっている部分がある。

カリブと米国南部の運命

世界システム論の一例として、カリブと米国南部の近代の運命を紹介したい。

どちらも英国の植民地であり、奴隷を送り込んでプランテーションが建設された。地理的にも近い。

カリブ諸国では、プランテーションの経営者は現地に住んでいなかった。なぜなら、儲かったから。

儲かって成功した企業家となれば、植民地に住むことはなく、母国の英国に返って貴族みたいな生活をすることになる。

逆に、米国南部ではタバコのプランテーションだったために、利幅が薄く、経営者は英国に凱旋することができなかった。

これによってこの2つの地域は運命が分かれた。カリブ諸国はほとんどインフラが整わなかった。奴隷と管理者しか住んでいなくて、オーナーが不在のため、インフラを整備する動機がない。

いっぽう、米国南部はプランテーションの経営層とその家族が住んでいるため、街のインフラが次々に整っていった。

その後、発展できなくなったカリブと、発展できた米国南部に分かれることになった。

こんな感じで、その地域の運命は、指導者の資質や決断ではなく、歴史的な影響の中で形成されていることがわかる。

近代以降は、一国の中で完結して歴史を作るのは不可能なのだった。

歴史をみるときに一国で見る癖が直る

世界システム論講義を読んで、歴史をみるときにいつも一国で考えていることに気が付いた。

たとえば、「日本はこれからどうするか?」みたいな議論がある。

あたかも、日本の国会で通る法律によって日本の未来が思い通りになるような錯覚だ。

実際は、米国、中国はもとより、他国と影響し合うことで、意志とは関係ないところで歴史は作られていく。

日本の未来を考えるなら、世界の未来を考えないと、何もわからない。

北朝鮮についても

同じように、北朝鮮についても少し見方が変わった。

今まで、北朝鮮の権力者が、自分の意志で時代錯誤的な政治体制を作ってきたかのように思っていた。だから、「あの国はけしからん」みたいな印象をまっさきに持ってしまう。

しかし実際は、過去から現在にわたる他国との化学変化の中で、あのような国に少しずつなっていったのかも知れない。

世界システム論は、歴史の見方をかなり大きく変えてくれた。