コペル書評

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アメリカン・ドリーマー 理想の代償 | 既存業者の嫌がらせに苦しめられる

 

1981年のNYが舞台。

石油業界で事業を拡大する主人公アベルが、様々な危機に直面する。

 

 

主人公アベルはヒスパニック系の移民だが、石油業界で事業を起こして、頭角を現してきた成功者。

しかし、既存の石油業者からすれば、顧客を奪われているので、アベルのことが面白くない。

アベルの会社のタンクローリーが襲われる事件が相次いで、たびたび灯油を盗まれてしまう。(被害にあうのは常にアベルの会社)

既存業者からの嫌がらせなのだが、これが映画の柱になっている。

 

アベルには、他にも2つの危機がある。

1つには、全財産をはたいて石油タンクの土地の購入契約をしたが、銀行から融資が受けられなくなり、破産の危機が迫っていること。

もう1つは、検事がアベルの会社の不正を探って訴訟を起こしたこと。アベルとしては業界の慣例にすべて従っているが、新規参入のアベルの会社だけが標的になった。

 

ということで、映画はそれほどダイナミックな展開があるわけではなく、淡々とアベルの会社の危機と、アベルの奮闘を描写している。

 

成功者は何と戦っているか

アベルは顧客を獲得する才能に優れているため、事業家としてはすでに成功している。

アベルが延々と戦っているのは、暴力的な嫌がらせをする競合相手だったり、約束を急に反故にして融資を打ち切る銀行だったり、身の保身と手柄だけを考えている検事だったりする。

顧客を獲得することで成功者になれるほど甘くないのだった。

石油という荒っぽい業界だからかも知れないが、暴力や脅しとの戦いが待っていたのだった。

事業家はビジネスマンというよりは、戦国武将のようなものかも知れない。

 

灰色の80年代

最初、時代背景がわからなかったので、「やけに古い車が走っているな」という印象を持った。

ニューヨークの遠景も、高速道路も、落書きだらけの電車も、すべて妙に燻ぶっていて、なんか暗い感じがする。

途中でレーガン大統領が就任した1981年だとわかる。

1980年代のニューヨークの風景は、この映画の見所だと思う。

この映画の原題は、A Most Violent Year (暴力的な年)というもの。

主人公のアベルは、新規参入者であり、移民であり、理想主義者という設定。そういうマイノリティがやたら痛めつけられる時代だったということだろうか。