コペル書評

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ウソはバレる | ポジショニングが通用しない時代

本書の副題は「定説が通用しない時代の新しいマーケティング戦略」。ネット時代になってから、過去のマーケティング戦略が通用しなくなったことを解説している。

 

ウソはバレる―――「定説」が通用しない時代の新しいマーケティング

ウソはバレる―――「定説」が通用しない時代の新しいマーケティング

 

 

買う前に商品の価値がわかる時代

原題になっている "Absolute Value"「絶対価値」という言葉が本書には頻繁に出てくる。絶対価値とは、商品やサービスを買った後に体験するであろう質的な価値のこと。

スマホを例にすれば、仮にそのスマホを買ったら自分が体験すること、感じること、何に満足して何に不満をもったか、などなど。そういった質的な体験のすべて。

本書の主張は、その絶対価値が買う前にわかる時代になったということ。

その理由は言うまでもなく、ネットの消費者レビューが大量にあるから。消費者の購入体験が膨大に蓄積され、それを検索して読むことができる。

こうなると、商品を買う前に、買った後に体験することがわかってしまう。

ポジショニングは無効

じゃあ、そうなると何が起きるのか。従来のマーケティング戦略がいっさい通用しなくなる。

たとえば、ファーウェイが音にこだわったスマホをリリースした。「音楽が好きな人にまっさきに思い出してもらえるスマホにする」ためのポジショニング戦略をとって、CMに莫大な投資をした。

しかし、そんな企業の説明を鵜呑みにしてスマホを買う人はまったくいなかった。みんな消費者レビューを見て商品を選択する。

そして問題は、消費者レビューにおいて、音にこだわったメーカーの意図が無視されていたということ。

音の機能はあくまでスペックの1つであり、他の機能である処理速度とかカメラとかと同列にレビューされていた。

ま、そりゃそうだよね。スマホを買うわけだから、音だけを気にして買う人はいない。

つまり、企業がポジショニングを取ったところで、消費者は気にしない。あくまで、自分が買った後の絶対価値をネットで調べて選ぶ。

従来のポジショニング戦略では、消費者に「音楽をスマホで聞くならこのスマホ」と思い出してもらえるようにするわけだけど、そういう過去のマーケティング戦略は無駄ですよという話。

Oの依存度による

上記の変化は、すべてに当てはまるだろうか?

もちろん、そんなことはない。

本書の重要な概念は「O(オー)の依存度」という言葉。OとはOthers(他者)のことで、他者のレビューが重要かどうか

ティッシュを買うのにネットのレビューを調べる人はいないわけで、そういう商品だったら従来のマーケティングは通用する。

家電のように他者のレビューが重視されるような分野で、過去のマーケティングが通用しなくなってきた、ということ。

つまり、「ウソがばれる」ジャンルかどうかは、Oの依存度で決まる。

ブランドが通用しない時代=チャンスが多い時代

このように、買う前にすべてがバレる時代になると、チャンスが大きいのも事実。

たとえば、本書にはASUSのノートPCが例になっていたが、無名ブランドでも消費者に受け入れられると一気にシェアを獲得できる。

従来なら、世界的なブランドがひしめく分野で、短期間に無名のメーカーが躍進するなんて考えられない。しかし、消費者の評価が正確に伝わる今の時代は、良い商品を作りさえすれば無名でもチャンスがある。

この部分を読んでいて、私のスマホのことを思い出した。私はファーウェイのスマホ  g620sを使っているけど、消費者レビューがあったからこのスマホを買ったのだった。

消費者レビューがなかったら、よく知らない中国メーカーのスマホなんて買うことはできない。たぶん漠然とした安心感から日本メーカーのスマホを選んだはずだ。

今の時代は、価格コムやAmazonや個人ブログ等で消費者レビューが大量にあるから、「まあ、このスマホを買っても大丈夫そうだな。コスパがよさそうだ」と納得できる。メーカーの知名度を無視して買うことができる

これは書籍も同じで、今はAmazonの消費者レビューを見て本を買う。昔だったら、著者の知名度とか経歴が重要だったが、今では「著者が誰か」なんてどうでもよくなっている。消費者レビューを読んで興味が持てた本を読むようになった。

(本書「ウソはばれる」の著者についても、まったく知らない。大学教授なのか、単なるブロガーなのかもわからない。興味がないから経歴を読まない。著者はどうでもいい時代になった)

つまり、今までのようなブランド戦略はいっさい通用しない時代になった。消費者レビューを読んで、購入後の体験(絶対価値)を把握して、購買するだけ。

過去のあらゆるマーケティング戦略が時代遅れになりつつある。

ということで、本書に書かれていることは、実に納得できることだけど、ネットに入り浸っている人々からみれば常識に近いことかも知れない

昔のマーケティング戦略にこだわっている上司が社内にいたら、読ませた方がいい内容といえる。