日本残酷物語 | 私が知っている日本はほんの一部だった
民俗学者の宮本常一に最近はまっている。著書を探しているうちに辿り着いたのがこのシリーズ。
貧しさ、悲惨さ、犯罪。そういった日本の暗黒面を真正面から書いている。日本を理解するうえで欠かせない貴重な記録。
もともとは1959年に発行された本。日本が高度成長に入る前に、この企画があったことに驚く。
その後、1995年に文庫化されたのが本書だけど、写真や地図が削除されたらしい。まあ、理由は言うまでもないでしょう。内容が内容だけに。
発展途上国の悲惨
1巻から5巻まであって、すべて読んだけど、とにかく面白かった。ほとんどの記述は、江戸時代から明治あたりまでの時代を対象としているけど、知らない日本が目白押し。
結局のところ、私が自分の経験で知っている日本というのは、生まれて物心がついてから。つまり、先進国となって以降の日本なのだ。
生まれる前の日本の知識は、大河ドラマとか、歴史書籍、漫画から得たものが多い。そういうのはみんな綺麗な日本を取り上げたものばかり。
しかし、本書に書かれている日本は、「悲惨」「残酷」な側面を徹底的に掘り下げたもの。
その悲惨さというのは、一言でいえば、すべて「貧しさ」が原因といえる。貧しいから飢える、飢えるから子供を捨てるし、体を売るし、人を殺す。
こういう残酷な歴史は、発展途上国ではありふれた現実であって、日本もちょっと昔は発展途上国であり、人々は過酷な現実を生きていたのだった。
現代に垣間見える亀裂
このシリーズで印象に残っているのは、自殺について。とにかく、貧しくて自殺する、という内容が散見された。
他の国はどうか知らないけど、日本は生活苦で自殺するケースが多いような気がしてならない。
それって、現代でも実は続いていることでもある。日本では毎年3万人が自殺して、経済的な理由によるものが3割くらいあると推測されている。
残酷な現実は、けっして過去のものではない。ただ、昔はあまりにも、ありふれていただけだ。
昔も今も、人々はぎりぎり生き抜いているだけではないか。