幸福の計算式 ニック・ポータヴィー
幸福をどう理解するかについて、実に示唆に富む本です。
人々の直感に反するような内容が実に多い。
本書の中には、幸福感という「主観的なテーマも計算できる」という点を説明した部分が多いけど、それ以外の部分が面白かった。
周囲の人との比較で幸福感が決まる
幸福とは、絶対的な基準でなく、相対的な基準だということ。
たとえば、自分が金持ちになっても、周囲の人がそれ以上に金持ちになれば、むしろ不幸になる。
言われてみれば、当たり前のような気もするけど、絶対に覚えておきたいポイント。
これは「イースタリンの逆説」として知られているという。
簡単にまとめると次のような内容。
「お金持ちの人は貧乏な人より幸福だと感じている。しかし、国民全体が金持ちになっても幸福感は変わらない」
20世紀に米国で一人当たりのGDPは倍増した。間違いなく、すべての人の暮らしぶりは良くなった。しかし、調査をしてみても、人々の幸福感は変わっていなかった。
絶対値として金持ちになっても、みんなが豊かになっているので社会の中でのポジションは変わらない。だから、幸福感は増えない。
日本でもまったく同じ調査結果が出たそうです。どれほど国全体が豊かになっても、幸福だと感じる人は増えない。
周囲の人との比較したときに、自分のポジションが変わらなければ、幸福感も同じ。だから、政府が経済成長を目指したところで、国民は幸福になれない。
「改革なくして成長なし」とは言うけど、「成長なくてして幸福なし」とは言えない。あなたが幸福になるためには、国が豊かになっても意味はなく、あなただけが豊かになる必要がある。
これって、実はすごい怖い話でもある。
つまり、あなたが幸せかどうかは、あなたがどんな人間たちと付き合っているかで決まるということ。
あなたより金持ちだったり、社会的立場が高かったり、能力が高かったり、幸せそうな人々と付き合っていると・・・・
あなたは常に劣等感を突きつけられるので、幸福感は著しく下がるということ。
だから幸福感をもちたかったら、自分より下の人たちとお付き合いしなさいと(笑。
こういう身も蓋もない話って、リアルではおおっぴらにできないですね。匿名ブログだからこそ。(本書は、このほかにもセンセーショナルな話がたくさんあって、著者の母国である英国ですごい批判を浴びたらしいです。それだけ真に迫っていたともいえる)
ともかく、絶対に覚えておくべきは、人間は無意識のうちに周囲の人と比較してしまう生き物であるということ。
だから、比較して自分が不幸に感じるような人と付き合っているかぎり、絶対に幸せにはなれないということ。
世間の誰も言わないし、学校では教えてくれない真実。この本が教えてくれます。
そういえば、ピカソの有名な言葉で、「金持ちになってから、貧乏な人の中で生活したい」という内容があります。ピカソは正直者だ。
すべては相対的であり、すべては一時的
上記の話は、幸福感は相対的だという内容でした。
本書ではそのほかに、幸福感は一時的であるという点を強調しています。
たとえば、以下のようなことがあなたの身に起きたとする。
・宝くじで1千万当たる。
・所得が増えて金持ちになる。
・結婚する。
・子供が生まれる。
こういう幸せなことが起きても、その幸せは意外にも続かないということ。
人間というのは驚くほど慣れる生き物だということ。辛いことも幸せなことも、すぐに平凡なことになってしまう。幸福だという感情は続かないので、上記のような内容は思ったほど幸福にはならない。
逆に次のような悲劇が起きたら。
・愛する伴侶が亡くなる。
・子供が事故や病気で死んでしまう。
こういう悲劇が起きても、実は数年で人は立ち直れるという。つまり、主観的な幸福感が元に戻ってしまう。
この研究結果をリリースしたとき、著者はすごい批判されたそうです。
人間は子供を授かってもさほど幸福になれず、子供を失ってもけっこう早く立ち直れる。
感情的には受け入れがたいですが、しかし本書を読むと、そうかもなと思える。
日常生活にはさまざまなこと(感情を動かすこと)が次々起きる。
だから、1つのことに感情はフォーカスしたままにならない。
結果として、幸福なことが起きても、不幸なことが起きても、結局慣れていってしまうという。
本書の最後は、著者が西欧人にも関わらず、仏陀の引用で終わっています。
まあ、仏陀は「すべては変化する」という事実から、あらゆる教えを演繹していくので、本書のテーマにぴったりですが。
満足度:A
人間の幸福とは何かと考えるときに、本書は絶対に読んでおきたい内容です。